《1200年振りの誕生日》
後編

 
 
『あれは……そう、シアがターミナルに帰ってから初めて迎えたタツヤの誕生日の事だったかな』

 そう前置きをし、お姉ちゃんは当時の事を振り返りながら語り始めた。

     ◆     ◆     ◆

「あれ? お兄ちゃん、どこ行くの?」
「ちょっと散歩してくるよ」

 トラットリア左門で行われたタツヤの誕生日会の帰り、タツヤはそう言って何処かへ歩いて行った。

「……私も行くところがあるから帰る」
「え、あ、ごめんねリースちゃん」
「ん」

 サヤカの手から離れて私――フィアッカ・マルグリットはタツヤの後を追う事にした。

     ◆     ◆     ◆

「久しいなタツヤ」
「リー……いや、フィアッカさん。お久しぶりです」
「……ここでタツヤと会うのはあの時以来か」
「そうですね……」

 タツヤの後を追っていた私は物見の丘公園に来ていた。
 ……タツヤの後を追ってきたものの、さてどうするか。
 なぜか追って来てしまったが、別に私からは特に用は――

「フィアッカさん」
「ん、なんだ?」
「少し歩きませんか」
「歩く……? あ、ああ、別に構わないが」
「良かった、じゃあ行きましょう」

 そう言って歩き出したタツヤの後を私は付いていくことにした。

「…………」
「…………」

 歩いていくタツヤの後ろを無言で付いていく。
 リースリットを通してではなく、直接私自身がこうしてタツヤを近くで見るのは久しぶりだな。
 あの時より少し大きくなったか?
 ああ、そういえば。

「リースの中から見ていたが、今日はタツヤの誕生日だったんだな」
「あ、はい」

 歩みを止めてタツヤが振り返る。

「誕生日おめでとうタツヤ。プレゼントとかは何も用意できていないが……」
「ありがとうございます。その気持ちだけで十分嬉しいですよ。それに――」
「それに?」
「こうやって久しぶりに会ってくれているだけでも、俺にとっては十分なプレゼントです」
「そうか」
「はい」

 他愛のない雑談を交わしながらしばらく歩いていると、あの日シアと別れた場所にやって来ていた。

「この場所は……。どうもここにタツヤと居るとシアの事を思い出してしまうな」
「そう、ですね」

「…………」
「…………」

 どうしてもここに来てしまうとあの時を思い出して言葉が出辛いな。
 さっきまではそこそこあった会話が完全に途切れてしまった。
 私とタツヤしか居ない丘に風が吹く。
 あの時から季節も変わり今は冬、吹き抜ける風も冷たい。

「そういえばフィアッカさん」
「ん、なんだ?」
「シンシアの誕生日っていつだったんですか?」
「シアの誕生日? ……確か6月12日だったな。今からちょうど半年後だ」
「6月の12日……。あの、フィアッカさん。来年の、6月12日の夜になったらまた俺と会ってくれませんか」
「シアの誕生日の夜にか? 別に構わないが……」
「ありがとうございます」
「うむ……。さて、そろそろ帰った方が良くないか。もうだいぶ夜も更けてきたし」
「あ、そうですね。じゃあ、フィアッカさん約束しましたよ。忘れないでくださいね」
「ああ、分かってる。ふふ、私は記憶力は良いからな、忘れたりせんよ」
「じゃあまた半年後に」
「ああ」

 去っていくタツヤを見送る。

「シアの誕生日にまた……か」

     ◆     ◆     ◆

 そして半年後の6月12日。
 私とタツヤは再び物見の丘公園で向き合っていた。

「半年振りだなタツヤ、少し顔つきが男らしくなったな」
「そうですか? ありがとうございます」
「いろいろと頑張っているようだな、話には聞いているぞ」
「はい」
「……シアの為か?」
「…………はい」
「ふぅ……まあいい。タツヤが選んだ道だ、精一杯がんばれ。
 その想いはシアの姉として嬉しく思う」
「フィアッカさん……」

 タツヤが生きているうちに空間跳躍の技術は完成しないだろうが、それでも何らかの発展はするだろう。
 確証はないがそう信じたい。

「さて、今日はその事を話す為に呼んだのではないだろう。本題に入ろう。
 今日と言う日を指定して会いたいと言ったタツヤの思惑は分かっているつもりだが」
「はい、今の俺からのプレゼントをシンシアに届けてもらいたくて」
「やはりそうか」
「俺はシンシアの恋人なんだから、1回も誕生日にプレゼントをあげられないのは少し悲しくて……」
「タツヤ……」
「それで、その……出来ますか?」
「ああ、問題ない。
 今直接ターミナルまで持っていく事は出来ないが、シアが戻ってくるまで保管することは出来る。
 そしていつか必ずシアのもとに届けよう。約束する」
「ありがとう、ございます」
「……ところでそこに置いてあるやつ全部がそうか? 妙に多いんだが」

 タツヤの隣に大小さまざまなプレゼントボックスが置いてある。

「あ、これは麻衣や姉さんたちからの分です」
「マイやサヤカたちからの?」
「俺が準備していたのがばれていたみたいで。
 それで『シンシアさんに届けるなら私たちのも一緒に届けて』って言われまして」

 そうか……マイやサヤカたちからの……。

「……シアは本当に幸せ者だな。ありがとうタツヤ、サヤカたちにもそう伝えておいてくれ」
「はい」

     ◆     ◆     ◆

 そうしてここにあるプレゼントの経緯を全て聞いた時、自然と涙が溢れてきていた。

「あれ……おかしいな、この世界に来てからほとんど泣いた事なんてなかったのに……。
 お姉ちゃん、どうしよう……涙が止まらないよ」
「シア……」

 過去からのタツヤたちの想いを受け取って、溢れてくる涙を止める術を私は持ってはいなかった。

「我慢せずに泣いたらいい。私が胸を貸してやる」
「おねえちゃん……ぐすっ……うわぁあぁぁぁん」

 私はそうしてしばらくの間、お姉ちゃんの胸の中で涙を流し続けた。

     ◆   未来からの贈り物〜タツヤサイド〜に続く   ◆

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