《未来からの贈り物》
シンシアサイド

 
 
 タツヤと再会して抱き合って、しばらくの時間が経った。

「そういえばシンシア、どうやってここに?」
「え? うーんっと……」

 私が再びタツヤのもとにやってこれたのは、そうあの誕生日のプレゼントをもらった後に――。

     ◆     ◆     ◆

「落ち着いたか?」
「うん……」

 あれからどれくらいの時間が経ったのか、やっと涙が止まってきた。

「さてシア……実は私からも、お前が望むらな渡そうと思っているプレゼントがあるんだ」
「私が望むなら……?」
「ああ、付いてこれるか」
「うん……」

 研究室の奥へと歩いていくお姉ちゃんを私は追いかけ――

「っとと、プレゼントも一緒に持っていこう」

 タツヤたちからのプレゼントを抱え、追いかけて行った。

     ◆     ◆     ◆

「ここだ」
「ここは……?」

 お姉ちゃんに連れられてやってきた場所は私の記憶している館内地図に載っていないような場所だった。
 いわゆる機密的な場所なんだろうか?

「ここに入る前に聞いておく事がある」
「う、うん」
「タツヤたちに会いたいか……?」
「……え?」
「またタツヤたちに会いたいか?」
「会えるなら会いたいけど……でも」

 でもそんなの無理に決まってる。
 だってここはあの時からもう500年も時間が経っているんだから……。

「そうか」
「お姉ちゃん……?」
「シア。お前が望むならあの、タツヤたちが生きた時代に送ってやる事が出来る装置が……この中にある」
「えっ! ……冗談でしょ、お姉ちゃん?」
「本当だ。私たちが生きていたあの時代にすらなかったものだからな、驚くのも無理はないが」

 この時代の技術がまさかそこまで……。

「どうするシア?」
「……え?」
「時空転移するか、否か、だ」
「…………」

 時空転移……あの時のタツヤたちのもとへ行ける……?
 私が望めばまたタツヤに逢える……逢う事が出来る……。
 それが本当なら……でも……。

「もしも、もしも向こうに行ったとしたて、こっちには戻って来ることは?」
「…………」
「お姉ちゃん?」
「それは無理だな。向こうの時代には時空転移を可能にする装置が存在しないから一方通行になる」
「そんな……。お姉ちゃんともせっかくまた逢えたのに……」

 せっかく最初に分かれた時から1200年、あの時からでも500年ぶりに再会できたのに……また離れ離れになるなんて……。

「私の事なら気にするな」
「お姉ちゃん……」

 穏やかな顔で笑ってるお姉ちゃん。

「シア……お前の使命は終わりを迎えたんだ。これは使命を果たした褒美だと思ってもらって構わない。これからは科学者としてでなく、一人の女として幸せに生きてもいいんだ」
「…………」
「それに向こうにも私は居るからな。向こうの私とまた仲良くしてやってくれ。私はそれだけで満足だ」
「……お姉ちゃん、もしかして――」
「ふふ、さあな」

 もしかしたらお姉ちゃんは未来から来た私に逢っているのかも知れない。
 だから――。

「さて……どうする、シア。時を越えるか、否か」
「……うん、分かったわお姉ちゃん。私、逢いに行くよ」
「そうか」
「だって、これってお姉ちゃんから私へのプレゼントなんでしょ? ならもらわないなんて選択肢、選べないよ」
「そうか……ありがとう、シア」
「そんな、お礼を言うのは私の方だわ。素敵なプレゼントをありがとうお姉ちゃん」
「ああ。……よし、では中に入るぞ」
「ええ!」

 ドアのロックを開け、私たちは部屋の中に入って行った。

     ◆     ◆     ◆

「これが……」

 部屋の中には様々な機器、そして大きな透明のケースがあった。
 恐らくこれが時空転移装置……。

「ああ、これが時空転移装置……その名も『とびた』だ」
「……とびた?」
「制作者がそう名付けたらしい」
「へ、へぇ〜、そうなんだ……」

 ずいぶん可愛らしい名前ね、作った人は女性なのかしら?

「ああ、そうだった。この装置を使うに当たって言わなければならない事があった」

 装置を起動させながらお姉ちゃんが話始める。

「まず第一にだが、こちらの世界の物を原則向こうに持っていくのは駄目だ。受け入れ態勢が整っていればいいんだが、さっきも言った通り一方通行だからな。当然ながらそういった態勢は整っていない」
「うん、分かってる。こっちでは当たり前でも向こうじゃオーバーテクノロジーだっていっぱいあるだろうしね」
「ああそうだ。それともう1つだが……」
「うん」
「…………」

 何か言い淀んでるような……言いにくい事?

「お姉ちゃん?」
「シア、お前の持っているロスト・テクノロジーについて……いや、この時代についての記憶だ。それを封印する事になる」
「記憶のプロテクト……」
「分かっているとは思うが、私たちの持っている知識や技術は向こうではまだ手に余るからな」
「うん」
「まあ詳しくは向こうの私がやってくれるだろう、話は通しておく」
「話を通すって……うん、まあ分かったわ」
「私からは以上だ。シア、何か聞きたい事はあるか?」
「ううん、別に――あ、そうだ」

 抱えていたタツヤたちからのプレゼントに目を移す。

「このプレゼントは、向こうに持っていっても?」
「構わんよ。許可は取っている。何よりそれはあの時の時代のものだからな、何も問題はない」
「そっか。うん、じゃあ私は大丈夫よ」
「よし、ならその装置の中に入ってくれ」
「分かったわ」

 促されて私は装置の中へ足を踏み入れ――って、ちょっと待った。

「うん? どうしたシア?」

 装置の中にプレゼントだけをとりあえず入れ、私はお姉ちゃんの隣に立った。

「お姉ちゃん……」
「お、おい……」

 私はお姉ちゃんをぎゅっと抱きしめた。

「ありがとう、お姉ちゃん」
「シア……」

 お姉ちゃんも抱き返してくれる。
 お姉ちゃん……ありがとう……。
 最後にもう一度ぎゅってして、お姉ちゃんから離れる。

「じゃあ、私……行ってくるね。……またね、で良いのかな?」
「そうだな。向こうの世界でまた逢おう……幸せにな」
「うん!」
「では、行くぞ!」

 お姉ちゃんの掛け声とともに装置が起動される。

 さよなら、お姉ちゃん……ありがとう……またね……

     ◆     ◆     ◆

「…………」
「シンシア……?」
「ごめんなさい、タツヤ。話せないわ」
「え?」
「大事な……とても大事な人との約束なの」

     ◆   エピローグ・フィアッカサイドに続く   ◆

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